大阪大空襲の思い出

大阪大空襲と消火活動中の消防団員 昭和20年6月


― 湯川 茂 述 『教燈』より ― 
 三月というと、思い出として最も強いのは、昭和二十年三月の大阪第一回空襲の時のことです。十三日の夜中から大阪は初めての大空襲を受けたのですが、私はその日、早朝から本部参拝しておりました。その時分は列車も軍事輸送一色で、団体参拝等とても受付けられず、普通ではなかなか切符が手に入らないので、その時のお月参りも私の他に信者さん十五、六人という状態でした。
 敵の爆撃機の編隊が、いよいよ大阪へもやって来そうな気がして、今日は行かん方がいいんじゃないかナーとも思ったのですが、しかし、皆さんに「三月十三日、本部参拝」と約束したことでもあり、「まア日帰りで晩には帰って来られる……空襲があっても大てい夜だから」と、そんなことを言いながら出かけました。ところが、その時分は列車の故障も多くて、その日もまン悪く加古川駅を過ぎてから、列車が止まって動かんようになり、機関車が故障したという。やっと姫路から別の機関車が来て姫路駅まで引っ張って行ってもらい、そこでまた時間を費やして、金光に向かったわけです。
 おひる頃に着く予定が四時になってしまいました。お広前へお参りしたら三代金光様はもうお結界をおひけになり、ご神前でご祈念なさっておりました。「もう今日は金光様にお取次を願うことはできない……明朝まで待たなければならん。しかし、信者さんたちはこれから又大阪へ帰ってもらうことにしよう……」と思いながら、私たちも金光様のお退ひけを拝まして頂くために、お広前の正面の広場に立っておりました。やがて、金光様はコトコトと階段を降りて来て下駄をおはきになり……その時分はお車には乗られません……お歩きになって、いつも、まず東の方を向いて敬礼をなさるのですが、その時に限って、そのまえに、反対の側に並んで立っている私たちの方を向かれて一礼されたのです。全く予期しないことで、私もビックリして、あわてて頭を下げたようなことでした。私たちのこの日のお参りについて、何か特にお心にかけて下さっているように思われ、境内を立ち去って行かれる金光様の後ろ姿を拝みながら、心中で有り難く御礼申し上げました。
 それから、信者さんたちには、急いで帰ってもらいました。それでも、三、四人は私と一緒に残られました。
 
  控所で夕食を頂き、教会へ電話して、今日は帰れないが、留守中充分に気を付けるように言うておきました。そこへ鑑太郎先生(四代金光様)がお見えになって、いろいろ気安うお話し下さっておりましたが、その内、大分夜が更け、ブーと警戒警報が鳴りだしたので、「そーれ、またお出ましや」と立ち上がられ、私も「これからお広前へ参りましてご祈念さして頂きます」と言うてお別れしました。その時「わしも帰って金光様にお取次をお願いしよう」と仰せられたから、きっと、こちらのことも、金光様にお願い下さったことと思いました。
 
  その時は、今は名古屋へ行っている水谷先生が随行で来てくれていたので、「あんたは控所に残ってラジオを聞いて情報をメモして私のところへ知らしてくれ。途中がまッ暗だから、気をつけなさい」と言うておいて、私はお広前で一生懸命にご祈念していました。はたして、夜中の一時頃からでしたか……大阪はB29の大編隊に襲われ……どことどこが燃えている……どの方面の人々はどちらへ逃げなさい……今また第何波の敵編隊が来襲した……(こういうラジオ放送は金光ではよく聞こえたが、肝心の大阪では電気が切れてしまって何もわからなかったらしいが)私はそういう情報を知らしてもらいながら、被害が少なくて済むように、人命の損傷を最小限に止めて頂くように夜通しご祈念さして頂きました。
 
  四時に金光様のお出ましをお迎えして、お結界にお座りになると同時にお取次を願い、もち論大阪被災後のことも願って、それから朝一番の上り列車で帰途につきました。大阪まで行けるかどうかわからんという心細いことでしたが、車中も一生懸命にご祈念しておりました。昨日から眠っていないのですが、ねむ気も感じませんでした。

 神戸を過ぎると東の方が煙で真っ暗になっている……「大変だナー」という実感がいよいよ強くなる。幸い列車が大阪駅に着き、迎えに来てくれた者から報告を聞きながら急いで教会へ帰り、国民服の旅装のままでお結界に座らして頂きました。罹災した方々が次々と参って来られ、私も張りつめた気持ちで願い事をきき一生懸命にお取次さして頂きました。「どんなことがあっても、おすがりすることを忘れんように……元気を失わんように……」と先代のみたまが皆に呼びかけられており、皆さんもその心を受けて、お広前全体にそういう不屈・不退転の祈りが一ぱいに満ちているように思いました。あの時のような気迫だけはいつも忘れず持っていたいと思います。
          
 
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