「我が信心の歩み」 (連載第48回)


[四十九]  神様がご主人、自分は奉公人(九)

自分の店に奉公した話(3)


それから二年目のことです。夫婦がそろって参って来たのを見ますと、二人とも、大島紬の重ね着です。
「これは、いけない」と思いましたので、その場で注意しました。

「番頭が旦那様のようなふう(服装)をして参って来たな。そんなことをしていると、また難儀せんならんで。奉公してからまだ満二年だ。二年ぐらいで、それだけの仕着せをくれる親方があるだろうか。

 そんなことをするのが貧乏のもとだ。自分勝手に旦那をきめこむのはまだ早い。一生が奉公ということを忘れてはならん。あれほど経済に気をつけてと言ってあるのに、一体、そのふうはどうしたというのだ」

「恐れ入りました。私が悪うございました。もう着ませんから……」

「そんなものを着るのはまだ早い。着たらだまされる」

「だまされるとはどういうわけで?」

「丁稚は、厚司(あつし)を着ておればいいのだ。丁稚が、旦那のようなふうをすると、旦那のような気分になる。それがあぶない。それがおかげのとまるもとになる」
と言って、さらに、次のように話して聞かせました。

 お互いは、着物を着るにも、うっかり着てはなりません。きっとだまされます。自分の身分を知っていましたら、不相応なふうをしたいと思いませんが、身分を考えずに不相応なふうをしますと、だまされるものです。金を持ったら金にだまされます。地位を持ったら地位にだまされます。この点を、お互いは十分に気をつけなければなりません。まあ、こくらいのこと差し支えないと思っていると、しまいには高いものにつくのです。お互いは、自分の懐と身分を勘定して、それに合わせて行くべきです。これを経済というのです。

 私の身体は、お見かけ通り、やせておりますが、これを太く見せよう、大きく見せようと思って、相撲取りの着物を着たらどうでしょう。とても歩けません。それは、自分に合わないからです。

 これは、他人事ではありません。各自がまじめに考えて、自分の身分に合うように、心掛けねばなりません。そこで、私は紙箱屋さんに、
「もし、これから二年間に、二万円の貯蓄ができたら、その着物を着ていいが、それまでは絶対に着てはならん。着たらだまされる」
と言って、とめておきました。

 それからまた二年たちましたが、おかげ蒙って二万円の貯蓄ができました。神様の思召しは、どこまでも有難いではありませんか。氏子の願いをかなえてやりたいということよりほかには、何もないのであります。
「先生、あの着物を着させてもらっても、よろしゆうございましょうか」と聞かれますと、私も、約束したことであり、「まあそうあわてて着んでもよいが、二万円の番頭さんになったから、仕方がないなあ」
と言わずにはおれないほどのおかげを蒙りました。

 以上で、紙箱屋さんのお話をおしまいにしますが、この話によって、お互いの信心の道しるべが、よほどはっきりしたことでありましょう。

この人は、初め商売に行きづまって、夜逃げするよりほかには逃れる道がないと、観念するところまで立ちいたりましたが、何が、この人をそこまで追い込んだのでしょう。お互いは『わが身は神徳の中に生かされて』いる身で、わが身はわが身ならず、あなた様の身体であります。
その身体を使ってするお互いの仕事は、みんなあなた様の仕事であります。ですから、お互いは、あなた様に使って頂いていさえすれば、何の心配も憂いもなくてすむのです。

 それを、神様から離反して、「わしが商売してゆかんならん。おれが世渡りしてゆかんならん」と思うところから、目先の難儀を切り抜けるために小細工するようになり、つい、借金しなければならないことになるのです。

 こんな思いでは、借金ができるのは当たり前のことで息もつけないほどです。
 しかも、この苦難は、まかり間違うと、自分一代でなく、子々孫々までも残してゆかねばならないようなことになりますから、恐ろしいことです
 
 もしも、〃わしが商売する、おれが商売する〃という行き方で、行きづまらないですむ人がありましたら、それは、天地の道に合わないことです。親の徳か、それとも先祖の徳によって、やってゆけておるのですから、転ばぬさきに、おれが商売するというような大それた考えを捨てて、「自分のしている仕事は、みんな天地の仕事だ、自分はそれを手伝わせて頂いている奉公人である」ということをはっきりさせて、神様に一心にお願い申して、勉強と経済に意を用いて、何でも、ご主人の思召しに合うように働かせて頂くことです。

 これが、お互いのさせて頂く信心であります。そうすれば、自分で、ああしようこうしようと心配しなくても、だんだんと月給も上げて頂けますし、暮らし向きも楽になってくるのであります。
 

(この「我が信心の歩み」は、2009年6月に掲載されたものです)
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