かんべむさしのこぼれ話
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 かんべむさし

  1948年1月16日生れ 兵庫県出身の小説家、SF作家、エッセイスト。
  (かんべむさしWikipediaより)  金光教玉水教会信徒

 

連載第7回

日和を見る、運勢を見る


――船頭は天文学者やない。が、明日のヒヨリ(日和)をみる。ようみる人になると、イソウとかいうのも、そこの理屈は同じだ。わからんとはいえん。――
                    (『信話 第三集』137頁)




 これは、人相を見ることを「位相(?)を見る」と称している、そんな観相師のところへ行ってきた信者さんが、悪い見立てをされたので気に病んで参ってきた、その会話のなかに出てくる言葉です。安太郎先生は、船頭が長年の経験から明日の天気を当てる例を引き、同じ理屈で観相師も、人の未来がわかるのかもしれんと言っておられるのです。

 また上方落語の話かと言われそうですが、私はこの部分を初めて読んだとき、「先生、『日和違い』というネタを、知ってはったんと違うかしら」と思いました。

 これから出かけようという男が、途中で雨になったら困るので、降るかどうかを人に聞く。聞かれた方は、そんなこと自分にはわからないから、船頭か漁師に聞けと言う。

「船頭や漁師なら、わかるか」
「そらそうや。船頭や漁師は、沖へ出てから嵐にでも遭うたら、いのちにかかわる。そやから、あの人らは毎日、いのちがけで日和を見てるんや。ちゃんと、わかる」

 こんな会話がはさまる噺(はなし)でして、しかもこのネタを得意にしておられたのは、明治前半生まれで、数え年の九十歳まで現役で口演された、橘ノ圓都という師匠でしたから、明治末期か大正時代かに、どこかで聞かれたのではないかと思ったのです。

 もっとも、いま考えてみれば、先生は和歌山時代、鮮魚の仕入れや競り売りの商売をしておられたのですから、船頭さん漁師さんの仕事ぶりもよく御存じで、彼らが明日の天気を予測することなども当然知っておられ、それを言われたのかもしれませんが。

 それはともかく、この観相や易占について少し書かせていただきますと、ニセモノや詐欺師のような人間も多い世界だそうですが、本当に修業した名人になると、「わかる」「当てる」ことについては、それこそ神業(かみわざ)的な力を示しています。

 その代表例が、江戸時代の大阪の観相師、水野南北という人と、幕末から明治そして大正の初期まで、横浜や東京で活動した、易断の高島嘉右衛門ということになります。

『現代語訳・南北相法』(緑書房)、『易断に見る明治諸事件』(片岡紀明著、中公文庫)には、二人がいかに高い能力を見せたかが紹介されており、特に後書は西郷隆盛や伊藤博文の運命、日清日露の戦いの推移など、われわれが現実の結果と対照できる予測例が満載されていますから、その的中率の高さ、微細な指摘などには驚かされるのです。

 そして、二人が人相を見たり、占断したりするときの心構えも書かれているのですが、まず心を鎮めて無我の状態になること、そして神仏に接する境地に入ってから、相手に対したり卦を立てたりすれば、判断はおのずとうかぶという、そんな意味のことを異口同音に言っています。だから私は、二人のうちの後者、高島嘉右衛門は、道具こそ違え、『金光教教典』に出てくる桂松平師と、同じことをやっていたのではないかと思いました。

 教祖直信で、後年、福岡県の小倉教会を開かれた桂松平師は、人から初めて金光様の信心を勧められたとき、それまで金比羅様を信じておられたのでその神前にぬかずき、水晶の数珠を押しもんで、祈りを凝らします。

「明田角太郎の信ずる金光大神が真の神なら、十回が十回とも『丁』の数でお示しください。十回の内、一回でも『半』の数が出ましたなら、邪神と信じ、今日以降、心にも留めません」

 そう念じてさっと両手を開くと、その間に位置する数珠の玉の数が、十回が十回とも丁(偶数)と出た。さらに三回試しても、やはり丁だった。それによって金光大神が真の神であることを知り、信心を始められたわけですが、これは、まだ神様と直接「お話」をさせてもらえてなかった桂師が、こういう間接的な方法によって、その意思を示してもらった事例だと言えるでしょう。だから高島嘉右衛門も、数珠の替わりに筮竹(ぜいちく)という道具を使って、それと同じ問いかけをやっていたことになるのではないかと思ったのです。

 ただし彼は、そうやって間接的に神意を問いつづけてレベルを極限にまで高め、その領域における名人にはなっていたものの、桂師のように、その先の世界へ進むことはしませんでした。だから、そこが易断と信心の違いで、人の運命はわかっても、それ変える(変えていただく)ことは、できなかったのだという理屈になるのではないでしょうか。

 
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