「教風」 (連載第18回)


やってみもせずにできないと言うな


梅田の書店で何か読んでみたいものはないかと探していて、本田宗一郎氏の本が目についたので買って読んでみました。

 言うまでもなく、本田氏はいまや世界的な自動車会社となった「ホンダ」の創業者です。そして私自身ホンダには親しみがあります。二十五年前アメリカ留学中に乗り回していた愛車が、ホンダ製なのでした。

渡米した当初は中古のアメリカ車に乗っていました。ところがエンジンがかかりにくくなり「押し掛け」をしなければならなくなったのです。誰かに車を後ろから押してもらってやっとエンジンがかかるという「押し掛け」です。

 ある晩、憲一先生に教えられたサンディエゴのダウンタウンにある日本料理屋さんに弁当を買いにいきました。ダウンタウンというのはアメリカの都市ではどこでもそうですが、昼間は人通りもありにぎやかなものの夜になると住む人が少ないのでひっそりして物騒なところです。

 少し離れた場所に車を止めて弁当を買いに行き、帰ろうとするとエンジンがかかりません。人もいませんから、弁当を買った店まで行って頼もうかと考えていると、すぐ後ろに車が駐車しました。出てきたのは、いかつい感じの黒人の兄ちゃんでした。怖い気もしましたけれども勇気を奮って事情を説明し、押してくれないかと頼むと思いの外気軽にOKしてくれました。この体格ならちょっと押せばすぐだな、と思っていると自分の車に戻ってしまいました。そしてそのままエンジンをかけ車を前進させ私の車へガツーン。もちろんその勢いでエンジンはすぐにかかりましたので、サンキューと合図して帰ってきました。

 黒人の兄ちゃんのために一言申しておきますと、アメリカ人はバンパーというものは車をぶつけても差し支えないためについている、と思っている節があります。スーパーの駐車場などで前後に駐車されてスペースが詰まってしまうと、その前後の車にぶつけて空いた空間をつくるというのはよく見る光景です。
 そんなこともあってホンダの小さな新車を買いました。当時カリフォルニアでも日本車の人気はアメリカ車を圧倒しており、ホンダの車がまたよく売れていました。その車もよく走ってくれました。休みによく旅行したので三年間で十三万キロも走りました。

 ●やる気をひきだす
 本田宗一郎氏の本に手が伸びたのは帯についていた宣伝文句がよかったからでもあります。「やってみもせずにできないと言うな」というのが口癖だったようで、こうした前向きの姿勢で本田社長は社員を鼓舞してホンダを一介の町工場から世界のホンダへと急成長させていったのでした。社員のやる気を引き出すことに大変たけており、本当にそれがうまかった方のようでした。

 ところが逆に大抵の上司は「俺のいうことがきけないのか」とか、「そんなことをしてはいけない」と社員のやる気を削ぐことが多いのです。
 翻って考えてみますと金光教祖という方こそ、やる気を引き出す名人だったと感じます。教典を拝読すると「我が心から練り出すがよい」とあるように、それをやってみなさい、それも結構、どしどしやりなさいという風な言い方ばかりです。ほかの宗教のような戒律、「あれはいけない、これはだめ」といったものはありません。こんなすばらしい教祖さま、教典をいただいている私たちです。それにふさわしい信心をさせてもらいたいものです。
(この「教風」は、2006年12月に掲載されたものです)
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